感想

個別の報告に対する質問時間はあったのですが全体を通じた交流協議の場がなかったのでちょっと物足りない感じでした。
ので少し感想を書いてみます。

まず、兵庫県立図書館長さんのご指摘は、確かにそうかもしれません。
自館が被災した時にその機能・役割としてどうすればよいかというのは案外考えられていないような気がします。
眼前の被害(図書館自体の復旧・被災者へのサービス)への対処に加えて、将来の住民へ残すべき情報を集めて保存する*1

神戸市立図書館は地震の翌日には大きな被害を受けなかった書店に連絡して震災関連記事を掲載した雑誌(図書館未収集の雑誌も含む)の取り置きを依頼したそうですが、なかなかこうは行かないのではないかと思います。*2

この前受講した「危機管理研修」の講師・愛荘町立図書館の西河内靖泰館長も「普段から準備していないことは急にはできないと指摘されていたのですが、自然災害のことについてもあわせて考えておく必要があるのでしょう。

例えば、史料ネットは、1995年3月16日付神戸市長宛要望書「都市計画の事業化にあたって歴史・文化遺産に配慮を求める要望書」(史料ネットニュースレター2号掲載)において、防災指令三号により災害対策業務に就いていた歴史・文化財関係職員を指令解除により職場復帰(防災指令三号により災害対策業務へ従事)させるよう要望を出しています。各自治体ごとに災害時の職員動員命令があると思いますが、図書館においても、その職員の一部だけでも(例えば郷土資料館・地域資料担当者)、歴史・文化財関係者同様できるだけ早期に復帰できるように本庁等関係機関と話をつけておく必要があるのかもしれません。

また、事業に当たって収集された写真等地域に残る現物資料の取扱いについて、豊中市虎姫町の方に質問させていただいたのですが、

  • 豊中市:提供いただいた写真はデジタル化後所蔵者に返却。
  • 虎姫町:基本的に返却。冊子状のものや一部資料については複写して図書館資料に。

とのことでした。

それら資料は、奥村先生の言葉を借りるなら「地域歴史遺産」であり、かつ各々の家や個人の歴史にとっての「遺産」でもあるので、元の所蔵者に返却するのは当然のことではあるのですが、一方で、「地域」に残ることにより、自然災害を受けた際に被害をこうむることがあり得る状態に置かれているともいえるのではないかと思います*3。よって、奥村さんの論考でもご指摘されているように、提供を受けデジタル化等した原資料の台帳を作成し、いざというときに即座に保全できるようにしておく必要があるのかなと思いました*4

また、虎姫町の事例に典型的に見られると思うのですが、地域の公的な資料保存機関としては図書館(室)しかいないというところは全国的に多いのではないでしょうか*5

加えて、奥村先生の報告の中で、日本的特徴として、自治体の中の区・部落・自治会などと呼ばれる半公的団体や私的部分といえる個人の家に地域遺産というべき資料が残っているとのご指摘がありましたが、そのような地域の地域歴史遺産保全には、地理的に密接した図書館の地域館がコミットしていく必要があるのではないかと思われます*6

そういう意味では、今回報告された虎姫町の取り組みは(地域で唯一の公的資料保存機関かつ現在は地域館)、多くの図書館にとって参考になる事例なのではないかなと思われました。あとは、被災したときに実際に対応する技術が必要かと思うのですが、奥村先生のご指摘のように、日常的な取り組みを通じて地域と連携しておくとともに、最終的に専門家に取り次ぐ前段階として、基本的な保存技術を知っておくことが大切なのではないかなと感じました。*7

*1:「減災文化」の継承にも通じますね。

*2:松永憲明「図書館再生への道のり」『情報の科学と技術』 55(11)(2005.11)

*3:もちろん資料保存機関にあっても被害をこうむる可能性はあるのですが。

*4:交流協議の時間がなかったので、実際両自治体でどうされているのかは聞くことができませんでした。

*5:虎姫町の場合は、図書館職員が3名。役場に学芸員の方が1名おられるそうです。

*6:奥村先生が、コメントの中で地域館のことを気にかけておられたのは、こういう理由からなのかもしれません。

*7:奥村先生が、神大人文学研究科地域連携センターには、そのようなノウハウがあるのでいつでもお教えできると仰っていましたので、研修などでお呼びしてもよいのかもしれません。