第12回レファ協フォーラムの感想

第12回レファ協フォーラムも盛況のうちに終わったようですね。よかったよかった(?)。

https://crd.ndl.go.jp/jp/library/forum_12.html
http://togetter.com/li/939902

参加できなかったわけですが、当日のつぶやきをみて感想など。

そうなんですよね。町村立図書館にはぜひとも参加していただきたきたい。

というのも、以前、蟹で有名な町の図書館を訪問したとき、職員さんによく聞かれるレファレンスは何かと尋ねたのですが、海と祭りに関することが多いとのこと(実際、訪問時に海図に関するレファレンスを受けておられました)。

つまりは、生業(海)と祭事という生活に密着したことを聞かれるということですよね。

そういうレファレンス事例が登録されると日本各地の地域の特色がみられて面白いし、積み重ねると民俗学的にも社会学的にも面白いのではないかと思います。

つまりは、

ということで、今後残念ながら多くの地域が消滅していくことが予想される中で、蓄積されたデータは、貴重な記録になる可能性を秘めているのではないかと感じます。

感想

個別の報告に対する質問時間はあったのですが全体を通じた交流協議の場がなかったのでちょっと物足りない感じでした。
ので少し感想を書いてみます。

まず、兵庫県立図書館長さんのご指摘は、確かにそうかもしれません。
自館が被災した時にその機能・役割としてどうすればよいかというのは案外考えられていないような気がします。
眼前の被害(図書館自体の復旧・被災者へのサービス)への対処に加えて、将来の住民へ残すべき情報を集めて保存する*1

神戸市立図書館は地震の翌日には大きな被害を受けなかった書店に連絡して震災関連記事を掲載した雑誌(図書館未収集の雑誌も含む)の取り置きを依頼したそうですが、なかなかこうは行かないのではないかと思います。*2

この前受講した「危機管理研修」の講師・愛荘町立図書館の西河内靖泰館長も「普段から準備していないことは急にはできないと指摘されていたのですが、自然災害のことについてもあわせて考えておく必要があるのでしょう。

例えば、史料ネットは、1995年3月16日付神戸市長宛要望書「都市計画の事業化にあたって歴史・文化遺産に配慮を求める要望書」(史料ネットニュースレター2号掲載)において、防災指令三号により災害対策業務に就いていた歴史・文化財関係職員を指令解除により職場復帰(防災指令三号により災害対策業務へ従事)させるよう要望を出しています。各自治体ごとに災害時の職員動員命令があると思いますが、図書館においても、その職員の一部だけでも(例えば郷土資料館・地域資料担当者)、歴史・文化財関係者同様できるだけ早期に復帰できるように本庁等関係機関と話をつけておく必要があるのかもしれません。

また、事業に当たって収集された写真等地域に残る現物資料の取扱いについて、豊中市虎姫町の方に質問させていただいたのですが、

  • 豊中市:提供いただいた写真はデジタル化後所蔵者に返却。
  • 虎姫町:基本的に返却。冊子状のものや一部資料については複写して図書館資料に。

とのことでした。

それら資料は、奥村先生の言葉を借りるなら「地域歴史遺産」であり、かつ各々の家や個人の歴史にとっての「遺産」でもあるので、元の所蔵者に返却するのは当然のことではあるのですが、一方で、「地域」に残ることにより、自然災害を受けた際に被害をこうむることがあり得る状態に置かれているともいえるのではないかと思います*3。よって、奥村さんの論考でもご指摘されているように、提供を受けデジタル化等した原資料の台帳を作成し、いざというときに即座に保全できるようにしておく必要があるのかなと思いました*4

また、虎姫町の事例に典型的に見られると思うのですが、地域の公的な資料保存機関としては図書館(室)しかいないというところは全国的に多いのではないでしょうか*5

加えて、奥村先生の報告の中で、日本的特徴として、自治体の中の区・部落・自治会などと呼ばれる半公的団体や私的部分といえる個人の家に地域遺産というべき資料が残っているとのご指摘がありましたが、そのような地域の地域歴史遺産保全には、地理的に密接した図書館の地域館がコミットしていく必要があるのではないかと思われます*6

そういう意味では、今回報告された虎姫町の取り組みは(地域で唯一の公的資料保存機関かつ現在は地域館)、多くの図書館にとって参考になる事例なのではないかなと思われました。あとは、被災したときに実際に対応する技術が必要かと思うのですが、奥村先生のご指摘のように、日常的な取り組みを通じて地域と連携しておくとともに、最終的に専門家に取り次ぐ前段階として、基本的な保存技術を知っておくことが大切なのではないかなと感じました。*7

*1:「減災文化」の継承にも通じますね。

*2:松永憲明「図書館再生への道のり」『情報の科学と技術』 55(11)(2005.11)

*3:もちろん資料保存機関にあっても被害をこうむる可能性はあるのですが。

*4:交流協議の時間がなかったので、実際両自治体でどうされているのかは聞くことができませんでした。

*5:虎姫町の場合は、図書館職員が3名。役場に学芸員の方が1名おられるそうです。

*6:奥村先生が、コメントの中で地域館のことを気にかけておられたのは、こういう理由からなのかもしれません。

*7:奥村先生が、神大人文学研究科地域連携センターには、そのようなノウハウがあるのでいつでもお教えできると仰っていましたので、研修などでお呼びしてもよいのかもしれません。

奥村先生からのコメント

最後に奥村先生からコメントがありました(文責は私にあります)。

  • 公的な資料保存機関の位置付けとそのなかでの図書館の役割の問題。
    • 小規模館であれば可能であった地域住民とのつながりが合併により距離ができたのではないか。
  • 事業の継続性の問題。
    • 本庁、住民の理解を得る努力が必要。単発では意味がない。
  • 地域の事情に合わせて住民と協同することの大切さ。
    • さまざまな住民に上手に対応して事業を展開していく技術が職員には必要。

事例報告1 豊中市立岡町図書館 「北摂アーカイブズについて」

午後からは事例報告。

1例目は豊中市立図書館で実施している北摂アーカイブズです。


大きな地図で見る

報告の内容としては基本的に以下の論文・報告と同じかと思いますので読んでいただければよいのかなぁと思います。

報告のなかでは、

  • 児童室で、子供から昔の写真とか生活ぶりに関する資料を求められた時に、子供向けの平易な資料が余りなくて提供できていなかった。
  • ただ、大人向けの郷土資料(市史類)に載っているかというとそうでもない。
  • 一方で、一般室で、高齢者から昔の話を聞かされることがしばしばあるのだが、その話がまさしく児童室で求められる情報であった。
  • これをどうにかして繋ぎたいという「想い」を心に秘めていた。
  • システムリプレース担当になったので、秘めていた「想い」をカタチにしようと努めた*1

というサービス構築までのお話が大変興味深かったです。*2

また、質問させていただいたのですが、この事業は市民参加型をうたっており、公募された市民がフォトエディターとして写真を整理して情報を発信しているのですが、当初、広報やチラシなどで募集をかけた時には人が集まらなかったのだけれども、募集期間終了間際に豊中市の地域SNSで案内したところ、一気に人が集まったとのことでした。*3

北摂アーカイブズ、今後もいろいろな展開(複数市での実施,写真以外の媒体への拡大,資金・事業面での自律化)を考えておられるそうです。

*1:教育委員会への説明,補助金事業への応募,システムのプロポーザルでの地域情報重視etc。

*2:司書がカウンターに立つ意味が語られることがありますが、このようにカタチにしてこそかもしれません。

*3:このようなWebサービスを用いた地域資料の保存・発信を住民参加型で実施する際には、紙媒体よりも、インターネットで募集したほうが適切であるのだなと感じました。対象にあった媒体を選択しての宣伝が必要ですね。

事例報告3 神戸市立中央図書館 「『貴重書デジタルアーカイブズ』の作成と活用について」

3例目は、神戸市立中央図書館で実施した小・中学校や生涯学習向けのCD-ROM版デジタル教材の作成(内容:明治から大正にかけての神戸の変遷)と図書館貴重資料デジタルアーカイブズについての報告でした。


大きな地図で見る

報告内容の基本的な部分は、

を読んでいただければよいのかなと思います。

発表の後、CD-ROM版とスタンドアローン版のデータを見せていただいたのですが、CD-ROM版では、地図・言葉・年表から簡便に調べられるようになっており、また、くずし字には翻刻の透かしが入るように工夫されていました*1

また、本事業に当たっては、マイクロ化した資料もあるが、基本的にデジタル化のみとのことでありました。

*1:一部資料のみだそうです。

事例報告2 長浜市立虎姫図書館 「地域の住民パワーが生み出したもの〜地域の図書館サービス充実支援事業を通じて〜」

2例目は、長浜市立虎姫図書館が合併前の虎姫町時代*1に実施した事業の報告でした。


大きな地図で見る

こちらも、報告の内容は基本的には、

にそった形で行われましたので報告書をご覧頂けばよいかと思います*2

この事業を実施して、「もっと早くはじめていたらよかったと思うこと多々であった」という発言がとても印象に残りました。

*1:町村制施行以来のはじめての合併だったそうです。

*2:虎姫町の昔を語る座談会の記録集を作成した際に方言などを採録できたことを述べておられましたが、奥村先生もご指摘されていたように、その座談会のテープがどうなったのかは気になりました。方言の言葉自体は記録集として採録できたとしてもイントネーションなどは音声からしかわからないでしょうから。

基調講演 奥村弘教授(神戸大学大学院人文学科研究科)「地域文化遺産の今日的な位置ー災害時の史料保全から考える」

「歴史資料を保全する活動を行ってきたが、これまで図書館とは連携をしたいと考えていたができていなかったので、今回講演させていただいたことを契機に繋がっていきたい。午後の報告から図書館の活動について学びたい。」と挨拶され講演が始まりました。

講演の内容は、奥村先生の一連のご論考、

などをご覧頂けばよいのかと思います*1

要旨としては、

  • 日本では、特に山間部では、既に江戸時代より人口が減少しており、高齢化もあいまって地域の記憶力の低下が猛スピードで進んでいる。
  • 地域の記憶力=地域歴史遺産の豊かな継承がなければ、減災文化(災害への対処方法)の継承もありえない。
  • 地域にとって重要な遺産が地域歴史遺産で、残すような遺産がないところはまずます人口は流出していく。
  • 一方で、関東大震災阪神大震災を比べると、市民の記録を伝える力量は増大している。
  • 地域歴史遺産は、単にあるものでなく「なる」もの。支持し自ら活動する住民が必要で、それには地域文化関係者の協同した持続的・組織的活動が必要である(公共図書館もそのなかに入る)。大学のサポートも必要。
  • 史料ネットでも初期(第1期)には、名前・顔を知っていることが成功のポイントだったので、普段の活動のなかでそのような繋がりをもっておくことがいざ災害が発生したときに活きてくる。

といったところでしょうか(詳しくは上記参考文献をご確認ください)。