主催者挨拶 近畿公共図書館協議会会長・大阪府立中央図書館長 岡田重信氏/兵庫県立図書館長 下野昌宏氏

最初に、近畿公共図書館協議会会長(大阪府立中央図書館長)の岡田重信氏から

  • 地域の課題を解決する図書館を目指す必要。
  • 地域の情報拠点として地域を支える存在に。
  • その意味で地域の情報を集積・発信することは図書館の重要な役目である。
  • 本日は先進事例から学んでいこう。

という本年度の研究集会の趣旨説明がありました。

次に、幹事館の兵庫県立図書館長・下野昌宏氏から

  • 阪神大震災の際、当館も被災した。
  • 他の地域が被災した時、何をすればよいかというのは比較的思いつきやすい。
  • しかし自館が被災を受けた時にどうしたらよいかというのは想定していないのではないだろうか。
  • 今と将来を考えて、そのような時、図書館はその機能・役割として何をすればよいか、ということを考えておく必要がある。

というお話がありました。

平成22年度近畿公共図書館協議会研究集会に参加

2月10日、近畿公共図書館協議会の研究集会に参加してきました。
テーマは地域の情報と図書館。会場はJR・山陽電鉄駅前の明石市生涯学習センターです。


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明石城 巽櫓・坤櫓)

記録集などは出ないようなのでとりあえず個人的に思ったことをまとめておきます。適宜追記・修正なども。

各報告内容を知ることができる参考文献もあわせて紹介しておきますので是非ご一読くださいませ。

感想

交流協議の際には、ヤングアダルト向けサービスの実施状況についての質問もありましたが、各館とも児童サービスに比して課題となっているとのお答えでした。1個前のエントリー(研修)にもあるように、児童が対象のサービスについては、既に相当な蓄積があって、読書状況に関する統計等でもある程度の結果を得ていると思われるので、今後は、読書率が低下するとされるヤングアダルトへ人的・質的サービス資源を投入しないと、目的を達成できないのではないのでしょうか。

また、中西館長は、司書教諭が削減される傾向は止められないので、PTAの協力や子ども独自の活動が重要になってくると指摘され、各館の方は、PTAや子ども向けの講座をしているが、例えば、小学校なら児童が6年で入れ替わるので、熱心な保護者がいてもそこで終わってしまうという発言をされていました。

これは、学校図書館が、PTAや児童・生徒だけでなく、学校区の地域社会にどれだけコミットできるのか、にかかってくるのかなぁとも思われました。

事例発表

和歌山県立図書館「出張します!どこへでも お話しします!読書の魅力」
開館100周年を迎え、これまでの消極的な態度から積極的な態度へ。その一つとして、子どもの読書を推進するための出張講座の開始。読み聞かせ、ブックトーク学校図書館ボランティア支援、本の修理・整理、紙芝居作成、などなど要請があれば県内どこへでも出張。ブログを活用して情報発信するとともに、利害関係者の集まり(指導主事連合会・PTA連合会・公共図書館協会)で説明。間接支援ではなく、県立図書館が直接支援することで、市町村図書館の活動も活性化している。

都道府県が市町村を超えて直接講座を開くことについて質問用紙に書いて提出したところとりあげられまして、*1自力で出来ないところもあるのでやっていて、これをきっかけに市町村に業務を引き継いでいくこともねらいであるとのことでした。都道府県により事情が異なるのであれですが、今出来ていないところは予算的・人員的に厳しいからだろうから、引継はなかなか難しそうな気もしました。*2

たつの市立龍野図書館 「地域の力を高め地域を支援する図書館をめざして」
各種機関と連携している。学校・園とは、おはなし会等のほか、移動図書館で訪問したり、図書館で発展学習をしてもらったりしている。また、中学生による就業体験として、小学校での読み聞かせをしてもらっている(本を選んだりチラシをつくったりすることから)。関係機関とは、母子保健事業と連携してのブックスタート。学校教育課と連携して、絵本講座と学校図書館整備事業に関する講座(図書整理など)をしている。この講座を受講した市民にはボランティア登録をしてもらっており、学校図書館の支援に繋がっている。また、中央公民館と連携して講演会を開いたり、県立美術館の学芸員の方に、専門的な話とそれに関する本の紹介をしてもらっている。その他、地域行事に参加したり(写真展、パネル展、工作教室)、市民や中学生との読書会を開いている。

いろんな機関との連携というのはむしろ当然だとは思うのですが、報告テーマとなるのは、まだまだ全国的には出来ていないということなのでしょうね。こちらも質問用紙に書いて提出したものですが、県立美術館との連携の経緯は、元館長が県の職員だったことからとのこと。最初、大人向けのブックトークというのを企画して、その一つとして、学芸員の方にブックトークしてもらったことからはじまったそうです。今は、講演が主で、関連して本を紹介してもらっている感じとのことでした。

さて、質疑応答の際、別の図書館の方が、何かの会合で美術館担当の方と同席したときに、うちでは本物の美術作品を見てもらうのを受け持つから、鑑賞の導入部分を図書館で受け持ってもらえないか?と相談されたエピソードを話されていました。MLA連携というと、国レベルではデジタルアーカイブにおける連携がもてはやされている感もしなくはないですが、こういう地道な連携は市民が実感しやすい気もしました。

京都市醍醐中央図書館「子どもと本をつなぐ〜"出前貸出し"はじめました」
前提として近隣の学校と連携していた。子どもに本を読んでもらい、図書館に親しんでもらうために、授業とは関係ない、子どもたちに読んで欲しい、また、読んで喜びそうな本を選定(要望も聞き、それは次回訪問時に反映させる)、小・中学校を訪問する。団体貸出とは異なり、図書館自体が出前するイメージで、その場でハンディターミナルを使って貸出処理(2冊2週間)。図書館行事のチラシを配るとともに、返却は図書館にすることで、保護者ともに図書館に来てもらう契機に(その際、さらに本を借りていってもらえる。リピーター率33%)。各自の役割(学校図書室=専門図書室→調べ学習/公立図書館→読みたい本を読む場所)を考えたうえで連携することが重要。

協力車で訪問してお話を聞いていてもそうなのですが、児童サービスを通じて、大人にも図書館に来てもらうというのが一つのパターンになっているなぁ、と聞いていて思った次第。とするならば、大人にも魅力的な図書館にしておくことも必要だと思われる。そこで失望されたら終わりですもんね。

*1:交流協議の際、中西館長が、県、市町村というのは設置母体の差だから、やって構わないみたいなことを仰っていましたが、確かに設置母体に関わらずやるべき事項もありますが、県と市町村で役割分担すべき事項というものがあり、今回の報告内容は基本的にはむしろ後者だと思われるのです。

*2:そういう地域に対するサービスは、このまま県立がせざるを得ないような(それはそれとしてありとしても)。知識・経験的に厳しいのであれば研修により引き継げる可能性はあるのだけど。

基調講演 「「いのち」にふれる」

京都市中央図書館長 中西進さん

読書の意味とは。美女と野獣では、本を読むことが野獣から戻るための鍵となっており、本を読む=人間的なことと考えられている。読書とは、(自身の中にある?)人間を発見することである。そのように考えたとき、図書館の役割とは何か。近年、図書情報館とか情報センターと名乗るところが増えてきている。情報提供機能は否定すべきものではないが、情報提供機能と読書提供機能とは別の機能であることを認識しておく必要がある。図書館の、読書による感動(「いのち」にふれる=心の痙攣)を与える場という機能を忘れてはいけない。

児童奉仕部門研究集会も兼ねていたので、読書の重要性を強調した話になっていましたが、「情報提供機能と読書提供機能は別」というのは確かに。かつては、後者のサービスへの偏重、近年はその反動として、前者のサービスが強調されているが、両方とも車の両輪のようで、大事ではあるよな。資金獲得の可能性が高い前者のサービスを実践しつつ、後者のサービスを実施することになるんでしょうか。

平成21年度近畿公共図書館協議会研究集会(兼児童奉仕部門研究集会)に参加

先週は、近公図の研究集会(兼児童奉仕部門研究集会)もございました。
会場は京都アスニー。


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テーマは「子どもたちが”感動する心”を育む」です。

ヤングアダルトサービスの低迷と「市民の図書館」の関連

さて、講義を聴いていて、う〜んと思ったのは、「市民の図書館では、貸出・児童サービス・全域サービスが重視されたため、YAがサービス対象として取り残されたと考えられ、そのことと、中高生の読書率が下がることとの関連性もあるだろう。図書館として何ができるか、何をしないといけないかを考える必要がある」、との指摘。

確かに、今の仕事をしていると、市町村立図書館は、児童サービスを重視しているなと感じるし、それはそれで大事なサービスなんだけども、ちょっとそれだけに偏りすぎているよなぁ、と思わなくもなく、最近、来年度の研修を計画するのに、この5年ぐらいの研修テーマ*1の研修を調べてたのですが、7割方児童サービスに関する研修だったりもして、いろいろと考えさせられた一日でございました。

*1:うちの図書館主催の研修と図書館協会主催の研修両者